午前九時前に東中野駅のホームの端っこで総武線沿線の娘っこたちと弁当集会。各々の手作り弁当を時計回りに交換してから出社した。昼に弁当箱を開いたときの驚きといったら。早起きはひじょうにしんどいが、箱の中に詰められた新鮮な味わいと、いつもより一時間早い朝の光のまばゆさを目撃したのが今日の収穫。

夜、ラジオ番組の公開録音。ひさびさに大所帯渋さのライヴを観た。渋谷NHKの505スタジオは天井が高くて背後には反響板もあったりして、また音のバランスが非常に巧くていつもはかき消されがちなベースの低音やフルートの高音までちゃんと聴こえたのがうれしかった。ラジオ番組だというのにお色気ダンサーや白塗り舞踏やおしゃもじ隊が舞台に上っていてすでにその場はお祭りだ。今日のライヴは「渋さ知らズ」と「遠藤賢司渋さ知らズ」と「冠二郎渋さ知らズ」の三パートにやんわりと分かれていて、休憩含めて三時間強の演奏。エンケンさんが渋谷さんのピアノで「夢よ叫べ」を歌った。NHKは紅白歌合戦の顔ぶれを今こそ改めるべきだ。エンケンさんは本当にかっこいい。今夜の赤いシャツもいかしていた。賑やかに叫び四股を踏む「不滅の男」も、からだが踊って心がぐっと泣ける名曲。一方、ラメ姿で登場した冠二郎さんは陰陽でいえば陽に振りきった様子で一気に会場を沸かせ、粘っこさを排除した「アイ・ライク・演歌」の志を披露。隣でおじいちゃんが愉しそうに手拍子してからだを左右に揺らしているのを見てわたしもなんだかとっても愉しくなった。渋さ知らズがバックバンドになっちゃった瞬間。混沌が混沌に見えないのはこのバンドの強みであるけど、それだけにもうひとつ本当の混沌をみたい気持ちが疼くのも事実だったりする。休憩を挟んでから渋さのステージ。芳垣さんのドラムと勝井さんのヴァイオリンが絡むと出張ROVOになる。片山さんはいつ見てもどこまでが口でどこからがサックスなのか皆目見当がつかない。サックスがすばらしい喉である。高岡さんのチューバはいつ息継ぎをしているのだろうといつも感心する。そして不破さんは両手をブンブン振って収拾のつかない事態をたのしんでいるようだった。場内禁煙で酒持ち込みもできない様子だったが、グッとしまったナーダムは見事だった。でも、夏の長野で観た「天幕渋さ」の夜のことを思い出せば、あのときの興奮と驚きは並大抵の舞台ではもはや再現できるものではないだろうと思う。あのときだけは、自分と同じように隣ではしゃいでいる見知らぬひとと手を取り合ってもいいと思えた。発酵した枯草の上でなにか人懐っこくおそろしい怪物のようなものが見えてしまった、あの瞬間みたいな出来事がまたやってくればいいと思う。